Vo.久我 新悟

Dr.小林 孝聡

Gt.新井 崇之

Ba.進藤 渉

──6月29日にリリースされる両A面シングル「DOUBLE FEATURE」は、とても情景が見えやすい作品になっているなと思ったのですが、まずは本作のテーマから教えて下さい。
久我新悟(以下、久我):今回の作品は、シャム双生児(結合双生児)をテーマにしています。それを下に「サイド・リブラの場合」「ショウ・リブラの場合」という2曲の中で、主人公が見せ物小屋で過ごしていたという世界を表わしているんです。
──まさにこれは、禁断のテーマとも言えるのでは?
久我:あぁ、そうかもしれません。シャム双生児と言って最初に思い描くのは、体が1つで頭が2つという姿だと思うんです。ただ、それを普通に取るのではなく、趣向が2つであるというところと、自分の姿を生業にして生活しているというのが、僕自身が持っているアーティスト像にすごくリンクするところがあったんですよね。そういったところを双生児にかけて、曲や歌詞、そしてビジュアルイメージとして膨らませていったんです。
──そう聞くと、本作は精神論から始まった感じがします。何だか、気持ちの面で捉える部分が大きかったのかなと?
久我:そうですね、確かに。後は、両A面シングルで行こうとなった時に、“陰と陽”や“静と動”といったテーマでは出したく無かったんです。そうしてしまうと、単純に、激しい曲とバラード曲に分かれてしまうと思ったので。
──なるほど。でも反対に、“静と動”の方が、曲は作りやすかったかもしれませんよ?
小林孝聡(以下、小林):その方が簡単だと思います。
──それでも、本作はそうしなかった。そうやって難解なテーマを設けた事こそ、LIPHLICHらしくなったといいますか。結果、どちらも両A面に相応しい1曲となりましたね?
久我:そうですね。それは良かったなと思います。
──それでいて、2曲とも違う面を持っていますし。
久我:確かに、良いバランスを持った2曲になっているなとは思いますね。
──その上で、レコーディングは、どういった姿勢で臨んでいったのでしょう?
新井崇之(以下、新井):デモが仕上がった時点で、この2曲の性格がハッキリと仕上がっていた感じなので、レコーディングでは、そこまで考えていったというわけでは無いんですよ。あくまで、自然な感じでした。
──デモの段階でそこまで見えているとは、すごいですね?
新井:LIPHLICHは、そういった曲が多いんですよ。後は、そこにメンバー各々の色を詰め込んでいくだけですね。
──では、「サイド・リブラの場合」で新井さんがこだわったところは、どこでしょう?
新井:音の重さやギターのフレーズ、そして、ギター・ソロで主張していきましたね。ここでは、元々あったものを個人的に全部作り替えていったんですよ。デモの段階では音が普通に入っていた感じだったんですけど、そこで人間模様を描きたかったというか、緊張感のあるドラマティックな展開を付けたいなと思って考えていきましたね。
──それにより、感情が色濃く乗った感じがしますよ。
新井:そういう感じに聴こえるかと思います。
──渾身のギター・ソロ、メンバーからの評価はいかがなもので?
新井:もう、一切無しです。
──そんな、きっぱりと言わなくても(笑)。
小林:そういえば、特に何も言ってません。でも、良いとは思ってましたけど。
久我:うん、良いと思うよ。
新井:今、言われてもねぇ(笑)。
小林:ダメって言わなきゃ、良いって事なんです(笑)。
──小林さんがこの曲でこだわった部分と言いますと?
小林:最初に曲を聴いた印象というのが、オイルタンクからこぼれるタールという感じだったので、タールが地を這う音というのを表現していきましたね。一見、淡々と進んでいくんですけど、最後のサビで盛り上がりを作りつつ、終始、タールがまとわりつくようなずっしりとしたビートを叩いていきました。
──そうやって、最初に受けた印象を、ちゃんと具現化出来たのはさすがだと思います。
小林:恐縮です。元々、久我さんが持ってきた段階で絵は見えていたので、僕はちょこっといじっただけですね。それだけ、やりたい事が分かりやすいので、演奏する僕らからしたらすごく音を組みやすいんですよ。
──進藤さんも、この曲に関しては何か最初からイメージするものはありましたか?
進藤渉(以下、進藤):私の場合は、レコーディングするにあたって、どれだけ自分らしさが出せるかというのを前提に置いて音を作っていくので、どの曲においても進藤渉にか出せないアイデアを出そうと思って演奏しています。というのも、デモの段階で、ギターやベースの音がある程度入っているんですよね。なので、作り手が想像も出来ないような音まで持っていくというのが、基本ですね。
──なるほど、そういった思いありきでしたか。
進藤:それと、今回は映像を録る事も先に決まっていたので、他の曲に比べて絵的にも浮かびやすかったんです。「サイド・リブラの場合」は、激しく頭を振るような曲では無かった。私が演奏するのなら、おそらくこういう風に弾くであろうというのが見えていたので、ベースのフレーズに関しても、妖しく舞えるように弾けるフレーズになりました。だから、MV(ミュージック・ビデオ)も撮りやすかったですね。
──メンバーでさえも驚かせるフレーズが出来た時は、相当なまでに気分が良いのではないですか?
進藤:バンドをやる上で、同じものを作っても面白くないじゃないですか。メンバーが作った曲なら尚更。だから、こちらとしては想像を越えるものを提示して、作曲者にこのバンドを組んで良かったと思ってもらいたいんです。そこは、メンバー各々が思っている事だと思いますし、自分でも意識は高くしているところではありますね。
久我:彼の場合、自分から「最高でしょ!」って言ってくるんで、わざわざこっちから「良いね」って言わなくてもいいかなと(笑)。
──そのやり取り、目に浮かびます(笑)。久我さんは、この曲に関していかがですか?
久我:僕は曲だけでなく、MVの事も先に考えてしまうんですけど、今回は本当にイメージどおりに仕上がったなと思いますね。逆に、「ショウ・リブラの場合」は曲調しかり、MVでも思い切り遊んだという感じです。
──「ショウ・リブラの場合」は、映像を観て驚きました。
久我:メイクが印象的ですよね。先に渉くんと、1曲は分かりやすいもので、もう1曲は遊ぼうと話していたんです。それで、曲以前に映像の事だけは具体的に決まっていたんですよね。なので、順番的に言うと、音が出来上がったのは1番最後になるんです。
──面白い組み立て方ですね?
久我:このメイクで歌っている曲は何だろうと考えて、これは絶対にバラードでは無いなと。だからと言って、激しくも無い。そうしたところから、曲が出来上がっていったんですよね。一言で言うと、お洒落。とにかく、遊び心を持って作ったので、この曲も楽しかったです。
──ただ、メンバーが柔軟でいないと、そのような事は出来ないと思うんですよ。音が最後に出来上がるというのは、単純に考えても、その後のレコーディングが大変になるわけじゃないですか?
久我:確かに、「サイド・リブラの場合」の方はスムーズでしたけど、「ショウ・リブラの場合」はレコーディングはちょっと手こずったかもしれません。途中で修正を重ねる事が多かったです。いや、メンバーには申し訳無い事をしましたね。
小林:いや、そんな(笑)。この曲は「サイド・リブラの場合」とは対照的に、大まかなイメージのドラムだけ伝えてもらったんです。それがまた、プレイヤーとしての想像力を掻き立てられたというか。それに、僕は今までにもピアノが入ったファンク調の曲は演奏してきていたので、当日も思うがままに叩いていきました。
新井:僕は、この曲は難しかったですね。自分の事をギター・ヒーローと称している分、ワーッと弾くようなギターが好きなんですけど、この曲はそういった音は適していなかったので、何度も合う音を試していった結果、深く考えない方が良いというところに行き着きまして。素直な発想で取り組んでいった方が良いフレーズが生まれるんだなと思いましたね。
──まさに、魅せる音だと思います。
進藤:ベーシスト的なところで言わせてもらうと、LIPHLICHの楽曲の中で、最も自画自賛とゴリ推しが光った曲ではありますね。
小林:作っている途中から、「良いでしょ」って言ってましたから(笑)。
進藤:でも、そこで「これ本当に弾けるんですか?」と返されましたね。
小林:僕は弦楽器では無いので、聴いた時はこんなのが本当に弾けるのかなって思ったんです。でも、本当に弾けてました。
進藤:さすがに、非現実的な内容のものは弾かないからね。ベースに関しては、デモの段階でそこまでの指示が無かったんですよ。ただ、ピアノとギターを割と前面に出す曲にしたいとは言われていて。なので、ある程度の雛形が決まるまでベースは待っていたんですけど、これが良いというフレーズが決まったので、ほぼゴリ推しで聴かせたら、「予定には無かったけどかっこいいから良いよ」って言ってもらえて。
久我:あぁ、言いましたね。
──そうやって、二転三転するのが曲作りの醍醐味でもありますよね?
久我:そうですね。渉くんは独創的なベースを弾くので、いつも楽しいですよ。特に最近は、「おぉ!」と思える事が多いので。でも、たまに出すぎてしまう時があるので、僕はそれに対して止める事もありますけど(笑)。
進藤:弾きすぎているという。
──ベースの音は一般的に聴こえにくいとも言われます。でも、それを覆してしまうのが進藤さんの良さですよね。
久我:そうですね。
進藤:でも、ただ弾けば良いというわけでも無いんですよ。
久我:そのバランスは難しいよね。
進藤:他の人が弾いていないところを見つけ出して弾いているからこそ、ベースが目立つんですよね。だから、その隙間を見つける作業がとても楽しい。
──でも、これがツインギターだったら、音が喧嘩してしまうかも。
新井:あぁ、そうですね。僕としても、似たようなギタリストが2人いたら嫌ですよ(笑)。
──久我さんは、この曲でこだわった点などはありますか?
久我:「サイド・リブラの場合」では、歌の語尾のニュアンスやしゃくり上げるところに気を使っていったんですけど、「ショウ・リブラの場合」は、自分でも得意とする曲調なんでしょうね。スッと歌ってすぐにOKが出ました。
──そこまで早かったのは、自分の中でやりたい事が固まっていたからこそなんでしょうね。そして、カップリングには「MANIC PIXIE-RERUN-」と「ガベル・マンの真相」が収録されます。
久我:「MANIC PIXIE」は大事な曲なので、このメンバーでもう1度録り直そうと。ライヴでやっている感じをそのままミックスしているところもあるので、ライヴにしょっちゅう来ている子からすると、ライヴの音になっているなと思ってもらえると思います。
小林:「ガベル・マンの真相」の聴きどころは、やっぱりヴォーカルじゃないですか。最初に聴いた時、びっくりしましたからね。あの始まり方は斬新だなと。
久我:歌的には、サイド・リブラとショウ・リブラの2人がいて、それを観る観衆の事を表わしているんです。だからこそ、無機質な感じを出したくて、ああいった歌い出しになりました。
──この曲は淡々とした感じが逆に怖さとなっていて。それでいて、ライヴでもかっこよく見せられそうじゃないですか?
久我:これからワンマンも続くので、この曲もそうですけど、どれも披露が楽しみですね。
──この記事が出る頃には、無料単独公演が始まっています。無料というだけあって、たくさんの人に観てもらえる良い機会となりそうですね?
久我:高田馬場AREAでは2日間連続でやるんですけど、色んなところでの挑戦というのが色んな人の目に触れられたら良いなと思います。
──そして、その間には対バン形式の主催公演が東名阪で行われます。
久我:かっこいいバンドに集まっていただいています。
──では、改めて、LIPHLICHが他のバンドに負けないと自負出来る点は何だと思いますか?
久我:全部持っているところだと思います。激しい曲で楽しむ事も出るし、バラードをうまくやる事も出来る。また、ライヴをショーのように見せる事が出来る。そうやって、見せ方の幅が広いところが僕達の自負できる点じゃないですかね。後は、メンバーが素敵というところで、是非ライヴを観に来ていただけたらなと思います。
Interview:ERI MIZUTANI