──今回から2号に渡り、【Soan プロジェクト】の内面に迫っていきたいと思います。まず、Soanさんが本プロジェクトを発表・解禁させたのは、今年3月でしたね?
「はい、そうです。3月に発表してから初ライブとなった6月1日までは本当にあっという間に時間が過ぎていきました。自分が最高に格好良いと思っているアーティストさん達と自分の想いを詰め込むことが出来た楽曲で来てくれたみんなと共有できたことが本当に幸せでした。そして今現在、時間が経って改めて思うのは、協力してくれるゲストミュージシャンがいてこそ。というのも、さっきこの取材に来る前に、新作のレコーディングについてSoanプロジェクトwith芥のShunから“Soanからもらった新曲を演奏しているんだけど、この部分ってどういう風にしたらいい?”って連絡があったんです。それを聞いて、ゲストミュージシャンという立ち位置ではあるけれど、本気で作品に取り組んでくれているんだなって改めて感じたんですよね。メンバーへの感謝の気持ちを忘れることなく活動できていることもまた充実感に繋がっています」
──これまでSoanさんはバンド形態で活動されてきましたよね。それなのに、本メンバーではなくゲストミュージシャンを招いてプロジェクトを行うという形を取ったのは、なぜなのでしょう?
「バンドとは別に、“プロジェクトやソロ”という形で活動している先輩方を見てきて、音楽の表現の自由を学ぶことができたんですよね。バンドというのはある程度のバンドイメージを定着させたり、やっている以上は試行錯誤を繰り返しながらも常に上を目指さないといけなかったりするんだけど、プロジェクトとして敢えて自分の名前を大々的に掲げることによって、メンバーに負担がいかないようにしたかったというのも一つあります。そして自分自身がそのままテーマになることもまた音をとことん追求できると思ったんです。お客さんに観てもらう以上しっかりやりたいと思っていたから。、今上げた理由も含め、自分が好きだと思ったり尊敬できるプレイヤーや現役アーティストも誘えると思ったんです」
──確かに、そうすることによって誰もが自由に参加できますね?
「ゲストミュージシャン目線で見るとそうだと思います。“何か面白そうだからやってみよう”っていう感覚で取り組んでもらいたいと思ったので、ほんと気軽に参加してもらえたらって。でも、こうした考えに行き着くことができたのも、Moranをやりきったと思うことが出来たからなんだと思います。一つの終着点と言ってしまうと終わりのように感じてしまうかもしれませんが、メンバーと切磋琢磨し合いながら各メンバーの気持ちを汲み取りつつ上を目指していくことに関して、しっかりとやりきれた気持ちがありました。」
──そうだったんですね。ちなみに、今までソロ活動をやりたいなと思ったことはあったのですか?
「それは全くなかったです。Fatima、Moranではメンバーのそれぞれの意思・自分の意思との折り合いをつけながらがむしゃらに突き進んでやりきってきたので、今までソロをやりたいという感覚にはなりませんでした。やりきり完全燃焼し少し経った頃、高田馬場AREAの店長から“6月1日は空けてあるから。良かったら何かやってよ”と連絡をもらって。何と、わざわざ俺の誕生日にライヴハウスの予定を空けてくれていたんです。それがきっかけとなって【Soan プロジェクト】を作ったと言っても過言ではないです。そもそも、Moranが解散した時点で、俺は音楽と距離をおこうとしていたので」
─―えっ、そうだったのですか?
「はい。バンドに対して全力で突き進んできたというのもありますが、音楽に対する考えをもっと俯瞰的に見たかったというか。だから、これまでとは違って、音楽の距離をガッツリと置きたかったんです。それゆえ、すぐに表舞台に立つ気はありませんでした。心を動かすきっかけが無かったらライブをやる、ということにならなかったかも知れません。だから、Moran解散後、せっかく誘ってもらったにも関わらず、セッションなどは全て断っていて。唯一ステージに立ったのは、2月のバレンタインライヴのみ。それは、AREAの店長の誕生日で親友であるタケヒトのバンドで出演したものでした。お世話になっている人の誕生日であり、親友がお祝いするならこういう形が良いという気持ちが届いてきて、一緒に共演する運びとなりました。そういう形で自分の確固たる想いがあったからこそ、そうまでして表舞台には極力立たなかったんですけど、なぜか不思議なことに、店長の一言には心を動かされたんですよね。AREAと言えば俺にとって育ってきた場所でもあるし、長年お世話になった人からの言葉だったからこそ響いてきました。」
──人生、何が起こるかわかりません。
「自分でも面白いなぁと思いましたよ。自分でやりたいって思うからバンド活動をしてきたのに、他人から“何かやってよ”って言われてプロジェクトをやってしまうとは(笑)。けど、今まで自分のことをよく見ていてくれた人からの意見だったからそう思えたのかなと。うん、それは間違いないですね」
──結果オーライという。
「ただ、前とは考え方が変わってきたんですよ。Moranのときは自分がリーダーだったこともあって、メンバーの人生を背負っているという感覚があったんです。それでも、メンバーみんながついてきてくれるというありがたい環境の中でバンドをやれてはいたんだけど、俺自身、当時は周りに変に気を使って、責任感とプレッシャーにかられていたところは正直ありました。でも、今は、自分の名前を冠に付けてプロジェクトをやっているんだけど、ものすごく自由というか。それって、バンドでやりきれたことが大きいのかもしれないと思っていて。やっぱり、経験あってこそですよね。あと、俺がこのプロジェクトを通して伝えたいのは、自分の核となる部分や人生を描きたいということなんです。自分の誕生日に始める本気の音だから立ち返るという意味も込めて。だからこそ、ギャップというか、両極端に明確に分けた2つのものが必要だった。自分自身の人生の大きなテーマの1つがギャップなんですよね。そして人間には表裏一体や紙一重で【光と闇】だったり【陽と陰】のようなものが存在し行ったり来たりしているから心が移り変わって行くものだと思っています。それで、【Soan プロジェクト with 芥】では“動”の世界を描き、【Soan プロジェクト with 手鞠】では“静”の世界を表現しています。2つの世界を描くことで自分自身の心や想いにリンクするというスタイルです。どちらも自分であったり聞いてくれるみんなと繋がっていたら良いなと思っています。そして俺としては、楽曲とは歌い手に寄りそうものという感覚がずっとあって。だから、好きなヴォーカリストじゃなければ一緒にできないし、これまでの音楽活動を振り返っても、“Soanとしての意味”を再確認した上で、オリジナル曲を作って自分の好きなヴォーカルに歌ってもらおうと思ったんです。なので、バンドもそうですけど、今のプロジェクトも含めて、自分が最高だなと思えるヴォーカリストと一緒にやれていますね。おかげで、初期衝動を取り戻せている感じがします。芥・手鞠の声の質感、温度、2人が紡ぎだす言葉など、どれをとっても自分自身の好きな感覚に触れてくるから一緒にやっていて凄く自信にも繋がり、楽曲への熱や考え方など拡がっていきます」
────楽曲を聴かせていただきましたが、プロジェクトならではの面白さがありますね。ゲストミュージシャンとの化学反応がうまく出ているなと感じましたよ。ところで、【Soan プロジェクト with 芥】に参加されているヴォーカルの芥さんとは、どこで知り合ったんですか?
「芥は現在、シーンの中心でChantyというバンドで活動しているんですけど、そこで上手ギターを担当しているのがshia.っていうやつで。実は、彼の兄はMoranのベーシスト・Zillなんです。それもあって、俺はひっそりとshia.の活動を応援していたんですよね。そうした中でChantyのワンマンライヴを見に行ったんですけど、お客さんと同じ目線・空間で芥の艶のある歌声に衝撃を受けて。一言で形容するには勿体ないですがまさに、エモーショナルなヴォーカリストでした。それで、いつか一緒に音楽をやりたいと思っていたので、今回のプロジェクトを立ち上げるにあたり、すぐに連絡をしました。でも、そこで例えば、俺がバンド名を名乗って芥を呼んでしまったら、彼自身はもちろん、ファンの人にとってもChantyでやりたいことというのが見えにくくなってしまうと感じたんです。もともと、他のメンバーには母体(自分のバンドやメインフィールド)を大事にしてもらいたいと思っていたので。そしてそこから連鎖的に本人自身の今へ、そして今後の糧になってくれたらって。だから、このプロジェクトを通して各々のフィールドに戻ったときに、一層の活動をしてもらえるんじゃないかなと期待しているし、参加するミュージシャンにとって、【Soan プロジェクト】はお客さんに足を運んでもらっている以上本気の音を作る場所ではあるんだけど息抜きの場であってほしいんです。絶妙なバランスを求めたいし、メンバーにそう感じてもらえてたら本望です。」
──なるほど。【Soan プロジェクト】はライヴをすでに何本かこなされていますが、手応えはいかがですか?
「遡ると、6月1日のライヴがプロジェクトの初お披露目となったんですけど、お客さんのレスポンスも良かっただけに最高でした。音源化して欲しいという声や楽しかったという声がダイレクトに届いてきたことが純粋に嬉しかったです。各メンバーが母体となるフィールドで一生懸命頑張っているので、多くのライブを行い積極的に展開ということが出来ない分1本1本の大切さを感じていて。ほんと、良い意味で純度が高く音楽と向き合えていると思います」
──来年1月18日には、【Soan プロジェクト with 芥】の1stミニアルバム『慟哭を鼓動として道とする音』が発売されます。レコーディング中の現在(取材は11月下旬でした)、Soanさんは何を思いますか?
「5曲入りの作品なんですけど、芥は作詞を手掛けてくれていて。俺からは曲が出来上がった時点で、“この曲は感謝の気持ちを全面に出したくてアプローチした” “この楽曲はライブの熱をイメージしています”など、キーワードやライブの景色などをイメージで伝えるんですけど、自分が思っている以上の詩・世界を返してくれましたね。また、本作ではレコーディングメンバーにShunとIvyが協力してくれています。IvyはMoranのメンバーであり、今はラッコという新しいバンドを始めて。すごく忙しい時期ではあると思うんですけど参加してくれて本当にありがたいです。そこはShunも同じですね。Shunちゃんは同じフィールドで戦ってきた戦友ですが、こうして今一緒に本気の音で楽しむことが出来てうれしいです。そして彼も本当に引き出しが多く声が魅力的で。改めて、すごいメンバーをゲストに呼んでしまったなと思います」
──早くライヴが観たくなるような中身でした。
「ライヴがあって自分が生きていたというところがあるので、作品を聴いてライヴを感じたと言ってもらえるのは嬉しいです。ぜひ、ファンの人にもそう感じてもらえたらなと思いますね。そして、音源ならではの良さもレコーディングに魂込めているので届くと信じています。俺が描く心の声というものを芥やゲストメンバーの力を借りて存分に出すことが出来たので沢山聞いてほしいです。心に何か刺激を求めたいと思った時に触れてくれたらって思います」
──では、次号は【Soan プロジェクト with 手鞠】と、今後の予定について聞かせて下さい。
「はい。よろしくお願いします」
Interview:ERI MIZUTANI