──【Soan プロジェクト with 手鞠】は、【Soan プロジェクト with 芥】とは全く異なる世界観を提示していますよね。ライヴを意識してバンド編成で音を奏でている【Soan プロジェクト with 芥】では“動”を表わし、ピアノを中心にバイオリンやアコースティックギターを加えた編成で“静”を表現した【Soan プロジェクト with 手鞠】は、Soanさんのやりたいことが詰まっているように感じられました。
「まさに、音楽という文字のごとく、音を楽しんでいると思います。そこが、プロジェクトをやる上での確固たる信念に繋がっているというか。with手鞠だけでなくwith芥でも自分自身の今を体現することが出来ています」
──そもそも、Soanさんが手鞠さんの歌声を知ったのは、今から何年前のことなんでしょう?
「だいぶ古くから知っていますよ。多分最初に会ったのは、10年前くらいじゃないですか。彼のことは、るう゛ぃえというバンドをやっている時から知っていたんです。amber grisは勿論のことですが、るう゛ぃえの時から手鞠君の存在は知っていました」
──当時、キラキラとした音楽性を出すバンドが多い中、るう゛ぃえは独自の世界観を追求していたので存在感がありましたよね。
「そうですね。俺としても、ああいった陰りのある世界観がすごく好きでしたね。周りに流される感じが一切なく自分たちが格好良いだろうと思う音を追求し表現していたアーティストという印象があるので、当時凄い素敵なアーティストだなと思っていました。そして何ていうか、手鞠くんの歌声って、後ろめたいものでも背負っているかのような感じなんですよね(笑)良い意味で『陰』の要素をしっかり併せて持っているアーティストというか」
──わかります(笑)。ただ、Soanさんってどちらかと言うと“陽”なタイプの人間ではないですか。そういった人が陰りを好むのは不思議な感じがしますよ?
「あぁ。でも、音楽は陰りがある方が好きなんですよね。【Soan プロジェクト】というのは2つの表現方法で自分の生き様を描いているんですけど、俺がヴィジュアル系でいる理由って何だろうということを考えた時に、やっぱり、ヴィジュアル系独特の切なさが好きなんだなと再確認したんです。もちろん、他の音楽ジャンルにも切なさはあるけれど、日本人独特のものであるヴィジュアル系の切なさが俺は好きだなぁって。それもあって、【Soan プロジェクト with 手鞠】と【Soan プロジェクト with 芥】の共通テーマとして、切なさを描いていこうと思ったんです。性格は明るい方かも知れませんが、『陰り』がないのも俺自身違うと思っていますし、自分の心を映し出す時や自身の性格を振り返った時に常に『陰り』というものが側にあるなということも同時に感じることだったので。後はさきほど発言したことに繋がるんですが、ヴィジュアル系の世界って美しく儚いものというイメージが俺自身に凄く強く根付いている、ということもあるかもしれません。」
──そうだったんですね。ただ、手鞠さんとの出会いは今からかなり前のことなので、今回のプロジェクトをやる前から連絡は取っていたということになりますか?
「そうですね。るう゛ぃえ、Ruvie、そしてamber grisというバンドを経て、彼は今に至るわけですけど、俺がやっていたMoranとは何度もライヴで一緒になったことがあったので、手鞠くんとは連絡は取れるという状況でしたね。しかし、常日頃連絡を取り合うという仲ではなく、ライブハウスとかで共演した時に話したいことや音楽的なこと、感性的な部分を一気に会って話しをするという感じの距離感でした。でもその距離感でも確かな話が、濃い話が当時できていたのもあってリハーサルや本番を袖で観たりしていましたが素敵なヴォーカリストだなってどんどん好きになっていったことを覚えています。だから、今回の件で声をかけさせてもらった時に既に俺は手鞠というアーティストが好きだったので、 “そのままの今の手鞠でいいから。無理にではなく自然体で表現できるその手鞠が好きでやりたいんだ”と言ったんです」
──そのようなことをおっしゃったとは。
「芥に関しては、Chantyという大切な母体があるからこそ新しい芥像を作ることによって新しいアーティスト像を創造したいというのがあったんですけど、手鞠くんに関してはそのままで大丈夫と。今までの経験を経ての、今の自分というものを一緒に表現できたらと」
──その言葉は手鞠さんにとって、非常にやりやすいと思います。
「だと嬉しいですね。とにかく無理に新しいものをという考えではなくアーティスト手鞠として一緒にやってみたいプロジェクトだったんですよね。そうすることで、2つのプロジェクトのアプローチの仕方が全然変わることもまた表現の仕方として面白いだろうなとも思いました」
──手鞠さん自身、今までの手鞠から変えてほしいと言われたら、きっとこのプロジェクトには参加していないと思うんですよ。
「そう。だから、変えなくていい、変わらないでいいって俺は言ったんですよね。充分魅力的だから変わる必要というのがないと思ったんです。それで、自分が作った曲で手鞠というものを表現した時に、どういう科学反応が起きるかというのも一緒にプロジェクトをやりたいと思ったことが大きな一因でした。なので、実はこのプロジェクトを始めるにあたって1番最初に声をかけたのは手鞠くんだったんですよ。やはりヴォーカリストを決めることが一番俺にとって大切なことでして。一緒に飲んで自分の考えやヴィジョンなどを熱く語らせてもらいました(笑)話が逸れてくだらない話をする時もありましたが、お互いバンドをやっていた時にライブ会場で話をするという感覚で色々と話が出来たことは今でも大きいですね」
──そういった背景のもと、【Soan プロジェクト with 手鞠】は生まれたんですね。
「“自分で良ければやってみたい”と割とすぐに返事をしてくれて。それはすごく嬉しかったですね。もし、手鞠くんがOKをしてくれていなかったら、プロジェクト自体が成り立っていなかったですから。熱意が届いてそして手鞠くん自身がやってみたいと思ってもらえたことが何より嬉しかったです」
──2016年6月に行われたファーストライブでも、手鞠さんは存在感を見せてくれたのではないでしょうか?
「ヤバかったですよ。一緒にやっていて鳥肌が立ちました。ストイックな性格ですからね、彼は。ライヴをやってみて、改めて最高のヴォーカリストだって思いました。そしてお互いにバンドは違えど、こうして共にシーンにオリジナル曲でファンのみんなに音を聴いてもらうという部分で一緒に「ただいま」と言えたことも本当に大きな意味を持つなと思いました」
──それまで、バンドは違うけれどイベントライヴで一緒になったことはありましたよね。でも、プロジェクトという形で共演することになって、Soanさんは手鞠さんから、手鞠さんはSoanさんから、どちらにとっても良い影響があったのでは?
「そうですね。俺は、改めて彼のすごさを感じましたよ。そして同時に出演をOKしてくれたゲストミュージシャンのみんなや手鞠くんのアーティストとしてのストイックさなども感じることができて。ただ、今回のプロジェクトでは俺がピアノを弾いているということもあって、6月のライヴは緊張しましたけど」
──Soanさんでも緊張することがあるとは(笑)。
「人前でピアノを弾くことがあまりないので(笑)。人生で何度もステージに上がって想いを音にしてきましたが、ピアノを弾くという形ではほんとんど無いに等しい状況でしたらからね。俺にとっては、ピアノはあくまでも作曲ツールの1つだったんです。だから、そういう意味でも【Soan プロジェクト with 手鞠】はすごく刺激的ですね。今こうして新たな挑戦ができることもまた自分にとって音と向き合い向上心を持って取り組むことができているので」
──初ライブなどライブを数本終えての感想はいかがですか?
「初ライブは今お伝えした通り、ここまでしっかりピアノというスタイルで演奏をすることがなかったので、挑戦するという気持ちと緊張という空間が入り乱れていました。それがまたこのプロジェクトのコンセプトの一つなので、自分自身がそれを体感することができたこともまた大きかったです。そして数本のライブが終わりましたが、ゲストミュージシャンの存在も改めて大切だなと感じることができたことも今刺激になっています。ファーストライブでは自身がMoranで共演して大好きになったKraのタイゾに弾いてもらいましたが、ボディを使ったパーカッシブルなプレイも取り込んでくれたり、積極的にアレンジしてくれて曲に深みをもたらしてくれました。ヴァイオリンのSachiちゃん(黒色すみれ)はMoranからずっとレコーディングミュージシャンとして参加してくれたアーティストで、沢山のアーティストとコラボレーションしている実力のある人。そして華やかさがあり凛としいるところもまたこのプロジェクトに大きな意味をもたらしてくれています。本当にベストなメンバーでやれて感謝しています。そして祐弥(ex.Duel Jewel)やRuiza君(D)とも共演させてもらいましたが、祐弥の持つ透明感のあるコーラスにのせながら楽曲をアプローチしたり、Ruiza君が持つ繊細なアルペジオの中で曲がより密度が増した中で楽曲を披露したりなど、ゲストミュージシャンの在り方を沢山学び、そして自身がフラットな立場で各メンバーとディスカッションしながらライブをやれていることは本当に嬉しいことです。ゲストミュージシャンにも感謝の気持ちでいつもいっぱいですね」
──毎回最高のライブが出来ているとおっしゃっている意味がわかりました。そして、プロジェクトに誘う際、Soanさんは手鞠さんに“そのままで大丈夫”とおっしゃいました。それにより、手鞠さんは伸び伸びと自分を表現出来たと思います。そうやって、手鞠さんがそのままで良い分、Soanさんは自ら変化を求めたのではないかなと?
「かもしれないですね。やっぱり、新しいことをやらないとつまらないんですよ。音楽をやる以上、突き詰めたくなるというか。それで、新しいことを欲しがったんだと思います。でも、それも良いメンバーに出会うことが出来たから。それで、こういうことをやってみよう、ああいうこともやってみようと、創作意欲が沸いたんだと思います。しかし、手鞠くん自身もこのプロジェクトに携わることで音数の少ない状況の中でどうアプローチしていくか?などヴォーカリストとして新境地を開拓している最中です、と言っていたので、手鞠くん自身の中にも新たな変化というものを意識しながらこのプロジェクトに参加してくれているだなってこともライブや音源から伝わってくると思います。お互いに向上心を持って更にはゲストメンバー含めてこういう気持ちでいれることが凄く大切だなと改めて気づかされます」
──2月1日には【Soan プロジェクト with 手鞠】名義で、ファースト・ミニアルバム『静謐を制し征する音』をリリースされます。すでにリリースされている【Soan プロジェクト with 芥】のファースト・ミニアルバム『慟哭を鼓動として道とする音』とは異なるサウンドなだけに、聴いていて面白さを感じます。
「だからこそ、2つセットで聴いてもらえたら嬉しいんですよね。ちなみに、『静謐を制し征する音、慟哭を鼓動として道とする音』というタイトルは、手鞠くんが付けてくれました」
──非常に、“彼らしい”タイトルです。収録されている楽曲のタイトルも長くて独特ですが、これも最初に出たアイデアですか?
「Soan プロジェクト with 手鞠での楽曲タイトルに関しては、敢えて、長いタイトルにしたいなと。手鞠くんの良さって、言葉選びの天才なところだと思うんです。だから、ワンフレーズで収めるのはもったいないなと感じたんですよ。そして手鞠くんと話をして例をあげつつ今の形になりました。俺自身そこを意識しながら曲を作ったというのもあるし、全力でヴォーカルに寄り添っていきましたね。もちろん、そこに自分の想いも乗せていきつつ。自分の作曲スタイルとしてこのプロジェクトでは特に『心』というもの『人間の持つ感情』というもをメインテーマに掲げているので手鞠くんが歌うことをイメージしながら寄り添って楽曲制作に取り組みました。あと、1曲の流れもそうですがライブ自体もショートムービーを観ている感じになってもらいたいというのもあって、【Soan プロジェクト with 手鞠】のライヴは台本を手鞠くんに書いてもらっているんですよ。そういった意味でも、徹底した世界観を作っていると思いますね。ここに関しても手鞠くんと一緒にやれているから出来ることだと思っています。その日その場の季節や時間などを共に話をして空想と現実という世界を行ったり来たりする表現が出来ているのもの凄く世界を拡げることが出来ていると思います」
──歌声を活かすのは、もちろん曲の良さがあってのこと。ここでSoanさんが作られた楽曲はどれも叙情的で余韻を残します。特に、ピアノの音色が良くて。
「ありがとうございます。ただ、レコーディングは大変でしたよ(笑)。こんなにガツッとピアノをレコーディングしたのは初めてだったんですけど、奥の深い楽器だなって思いました。抑揚をつけることで心の揺れというものを表現しようと意識しながらレコーディングしたのですが、もっと洗練させていかないといけないということも今回感じることが出来たので良かったです。今やれる最大限のアプローチもできましたし、音色の温度というものも手にしてくれるみんなに届くと嬉しいなって思います」
──そんなことを言ったら、ドラムも奥が深いではないですか?
「もちろんそうですね。でも、ドラムは今までやってきて自信に繋がっているところはあるので大丈夫なんですけど、ピアノはさっきも言ったように作曲ツールというところがあったので、こうしてレコーディングで使用すると模索する部分はありますよね。でも、今お伝えした通り手探りながらにベストテイクが録れたと思います」
──でも、経験あってこそだなと思いましたよ。バンド活動をする中で培った演奏技術、そして、交遊関係に至るまで、全てが今回のプロジェクトに活かされていますよね?
「それは間違いないですね。しかも、今回は、手鞠くんだけでなく、多くのミュージシャンに協力してもらっているんです。【Soan プロジェクト with 手鞠】では、女性ミュージシャンにも参加してもらっていますから」
──女性ミュージシャンというと、先ほどおっしゃっていたバイオリンで参加してくださった黒色すみれのSachiさんですね。
「ありがたいことに、豪華なミュージシャンに揃ってもらいました。先ほどはライブでの手ごたえや感想という話でしたが、レコーディングでも祐弥とタイゾに参加してもらったんですけど、彼らは本当にうまい。レコーディングだからこそ改めて感じることが出来る瞬間でした。それに、極限まで良いものを作りたいという俺の想いを汲み取ってくれて、レコーディングも時間をかけて録ってくれてました」
──何とも贅沢です。
「ほんと、贅の極ですよ(笑)」
──周りのメンバーによって、Soanさんの音も際立っていますからね。
「今回、静謐を制し征する音に関してはピアノとドラムというアプローチでレコーディングしていますが、良い意味で引き算することができて良い作品になったと思います」
──また、嬉しいのが、ミニアルバム2作リリースというだけでなく、この後にライヴをやってくれるということなんですよね。【Soan プロジェクト with 芥】のツアーは、2月3日からスタートします。そして、【Soan プロジェクト with 手鞠】のツアーは、3月15日から行われるんですよね?
「会場は違うんですけど、どちらも東名阪を回ります。もちろん、レコーディングに参加してくれたメンバーも一緒に」
──2つのプロジェクトで会場を変えた理由は何ですか?
「思い入れのある会場を選んだというのも1つの理由ですね。あと、東京で始まって東京で終わりたかったというのはあります。原点である高田馬場AREAから、Moranの解散ワンマン直前にアコースティックライヴをやったことのあるMt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREまで、ほんとどれも楽しみですよ。あとはやっぱり、ワンマンツアーということで、今はまた新曲を作っているんですよ。だから、当日は新曲を聴かせることが出来るかもしれません。というか、聴かせます。自分が表現したい音はオリジナルあってこそだと思っているので。そこも期待してもらいつつ、【Soan プロジェクト with 芥】では音楽に合わせて体を動かしてもらいたいし、【Soan プロジェクト with 手鞠】では、聴いているみんなの心をえぐりたい。どちらも、圧倒的な空間を作りたいと思います」
(Interview:ERI MIZUTANI)