──ニュー・シングル「STORY」が完成しましたが、ご自身としても満足度の高い1作に仕上がったのではないですか?
「そうですね。今回、流通一発目ということで、色んな人にすんなり入る曲にしたかったというのが第一にあって。それで、1年間ソロ・プロジェクトをやってみての感じが、歌詞や曲に出たかなと思います。あと、歌うようになってからメロディから書くことが増えたんですけど、次に流通で出すってなったら、サビメロのストックがちょこちょこある中で、STORYかなって。STORYというワードはこの1年活動してきた中でハマるなって思ったんですよね」
──冒頭から惹き付ける楽曲になりました。とても耳馴染みが良いです。
「でも、そこまで狙ったわけではないんですよ。サビができあがっていて、周りの部分をどうするかは時間がかかりましたけど、結局、サビのメロディが良いって自分で思っているんだから、そこを最初に持ってきてしまおうって(笑)。それこそ、今まで俺がやってきたもの、BORNの印象もあるだろうし、攻撃的な楽曲の方が良いのかなって思うこともあったんですけど、最終的に考えなくなったというか。考えて練っていると正解がわからなくなってきてしまうんですよね」
──これまでは、作曲する際にアレコレと考えることも多かったですか?
「どうだったかな。でも、ソロになってからの楽曲は、自然とできたものが多くて。生まれたものをそのまま出しているというのは変わらないところではあります。ただ、今回は初の全国流通ということなので、色々な人の耳に触れてくれるだろうというのは意識した点ではありますね」
──表題曲の「STORY」は、ロックでありながらJ-POPの要素も強く出ていますよね。Kさんは普段からJ-POPは聴かれるんですか?
「歌うようになってからは、J-POPを聴くようになりましたね。今まで、バンドの一員として俺がやらなきゃいけないことというのは、コンポーザーとしてかっこいい曲を書きたいなというのがあったんです。その分、洋楽からインスピレーションを受けることも多かったんですけど、BORN後期ぐらいから自分でも歌詞を書くようになったので、英語よりも日本語の方が伝わりやすいかなって思ったんですよね。あと、俺が憧れたミュージシャンは何で英語の歌詞を書いていたんだろうって根本から見つめ直したとき、日本人ながらにして英語が喋れるという。その上で歌詞に置き換えて使っているから感情がより込められているんですよね。だけど、俺は基礎もできあがっていないのに英語で歌うっていうのもなぁって。まぁ、多少は英語を歌詞に入れてはいるんですけど、どちらかというと、日本詞の方が気持ちを込められているなと思います。なので、J-POPもよく聴くようになったし、それこそ、曲って会話をすることに近いのかなって」
──具体的にはどのように?
「例えば、“俺の話を聞いてくれないならそれでいい”“この曲の良さがわからないならそれでいい”って言いがちだと思うんです、ロックアーティストって。俺も昔はそうだったのかな。だけど、最近は、伝わらないなら伝わるように喋ればいいんじゃないの?って。だから、その延長線上に伝わるコード進行って何だろうってすごく意識するようになったというか。何だろう、大人になってスラスラと敬語が使えるようになった感じですかね(笑)」
──それだけに、ミュージシャンとして良い年齢の重ね方をしている自覚もあるのではないですか?
「あぁ、それは確かに。経験値で言えば、そう思いますね。ベーシストからギタリストに転向して10年間バンドをやって、しまいにはヴォーカリストとしてセンターに立つっていう経歴を持っている俺ですけど(笑)、やっぱり、ここ1年の経験値はすごくデカいなと。だけど、初心に返れているところもあるんです。パートは違えども、今までやってきたことをやっているだけといえば、そうなので。何ていうか、デモを作っていたときと同じ感覚なんです。だから、今はその意味合いを濃くしているだけですね。でも、何でもやり始めって楽しいですよね。それこそ、活動5年も経ったら、できて当たり前っていう感じになるじゃないですか。そこに、結果も伴わないといけないだろうし。だけど、本来は、好きなことをやるときって余計なことは考えなくてもいいんですよね。ありがたいことに、俺は好きなことをやらせてもらっているんだから、あんまり真面目なことを考えすぎても良くないなぁって。とは言え、あと何年か経ったら、こんなことも言っていられなくなるんだろうけど(笑)」
──そんなことはないでしょうけど(笑)。でも、今はすごく自由度が高く活動できていることがわかりますよ。
「サポートしてくれるメンバーがいるというのもありがたいですよね。だからこそ、ライヴもできるわけだし。バンドが終わったにも関わらず、この1年こんなに忙しく音楽活動できているところは本当に良かったなって」
──そういった楽しさというのは、音にも表われるものですよね。しかも、今回表題となっている「STORY」は、楽曲自体がシンプルゆえに、自信がないと出せない曲でもあるのかなと思ったのですが?
「前を向けているのが、今すごく楽しくて。自信もあるのかなぁ。もしかしたら、ないかもしれないけど、自分ではそこまで意識してなかったです。だって、初ライヴをやったときなんて、センターに立って歌を歌うことの難しさを知りましたからね。後からライヴビデオ観てビックリしたぐらい。自分で歌ってるのに、誰この人!?って(笑)。だから、バンドでヴォーカルやっている人ってすごいなって思ったし、同時に、ヴォーカリストを理解するきっかけにもなったんですよね。たとえば、今、音ズレたとか、そんな細かいこと気にしていたら、こんなところ(センター)に立っていられないやって思ったんですよ。それより大事なのは、もっと堂々としないといけないなって。そう思ったときに、ヴォーカリストってよくワガママって称されるじゃないですか。けど、実はそうではなく、ヴォーカルという立ち位置がヴォーカリストをワガママにさせるんだなってわかったんですよ」
──深いですね、その言葉は。
「今まではわからなかったんですけどね(笑)。でも、自分がその立場になって理解できたし、不思議とセンターになって楽になった部分も出てきて。もちろん、ヴォーカルだから背負うものも責任感もたくさんあるんですけど、それもまた楽しいですね」
──それって、センターに立たないとわからないことですね。
「そうですね。ヴォーカルが大変だというのも聞いてましたけど、1回熱いものに触って火傷しないとわからないと一緒で、実際にやってみてこんなにきついんだってわかるというか。そういう面でも、すごく音楽やっていて素直に楽しいなって言える自分がいるんで」
──そう感じたことで、歌詞の表現方法も変わってきましたか?
「バンドのときは書きたいことを書いていれば良かったんですけど、今は単純に曲数が増えているので言いたいことを1つ言ってしまったら、その次はどうするのって。そのためにも、見る角度を変えて書いてはいます」
──「STORY」の歌詞は美しいですよね。
「それこそ、この曲をA面に持ってくるというのは、ソロだからできることだったかもしれないです。あと、この歌詞の前半を見る限り、俺こんなに悩んでいたっけなぁって。基本、ポジティブなタイプではあるんですよ。目の前にやることがたくさんあったら悩んでいる暇もないので。だから、自分の感情と向き合う時間というのはあまりないんですけど、こうして歌詞で想いを絞り出すことによって、自分でもへぇ~って思うことはありますね。きっと、溜め込んで忘れられない感情が出てきてしまっているのかなって」
──それだけ、意思表示がハッキリしてきたのかもしれませんね。ここには、ファンへ向けての想いも含められていますか?
「もちろん、そうですね。ソロで活動して1年が経って、会場限定リリースはしていたんですけど、「STORY」と一緒で歌詞を見ていると、もっとこうしたかったという想いが入っているんですよね。それって、俺がバンド時代にしたかったことなのかなって。そういう時期を経て、ここからもっとしっかりやっていこうかという気持ちに、今はなれているなって思うんですよね」
──前向きな気持ちは「STORY」の映像にも表われているなと感じました。とても大人っぽい見せ方をするようになりましたね?
「映像チェックをしながら不思議な感覚でしたけどね。やっぱり歌っているなぁ俺って(笑)。まだ不思議な感じは抜けていないんですけど、それがまた面白いのかもしれないです。自分でヴォーカリストだなって感じるのは、歌うことや歌詞を書く比重が大きくなってきたことだけど、レコーディングでギターフレーズ考えているときも同じなんですよね。簡単に言うと、ギターだけやっていたときはそこに命をかけていたんです。自分の存在意義を出すために、もっと音を尖らせようとか考えていたので、ギターソロの音作りだけで1日かかっていたんですけど、1人で全部やるとなると全てに置いて気を配らないといけないんで、追求するだけが全てじゃないなって思いましたね」
──バンドにはバンドの良さがあり、ソロにはソロの良さがありますよね。バンドで培ってきたものが、この作品にはちゃんと出ていると思うので。
「陰のかっこ良さでありたいから楽器隊になったものの、バンドが終わってから、歌うこともできるんじゃない?と周りから後押しされて始めたソロ活動ですけど、今思えば、本当にやってみて良かったなと思います」
──本作はカップリングも個性的です。
「どっちも「STORY」とは間逆ですよね。あんまり考えてはいなかったんですけど、自然と作品の中でバランスを取っているんでしょうね。何かもう、「Higher」なんて「STORY」とは別人ですから。でも、俺からすると、どの曲も俺なんですよね。多面性があるというよりも、音楽に対してファンに思っていることだったり、ロックなんてこういうものでしょ、綺麗にやるもんじゃないでしょっていう感じだったり。きっと、どこかしらで、えっ!?っていう風にさせたいんでしょうね。もしも、「Higher」や「雀羅」のような曲をA面に持ってきたら、ファンの子はKらしいと感じてくれると思うんです。でも、サビ始まりの「STORY」を持ってきたことで、良い意味でビックリさせたかったというのはありますね」
──実に、変幻自在だなと思いました。
「「Higher」と「雀羅」に関しては、この間のワンマンで初披露したんですけど、何も問題がないっていう(笑)。それほど、ファンのみんながすぐに理解できる曲でもありましたね」
──やはり、音楽を作る上で聴き手を驚かせたいというのは、Kさんの永遠のテーマでもありますか?
「そうですね。自分という歴史がある中で、会場限定リリースで見せたものとは違う面を出しかったし、それを実際にやることによって、ロックミュージシャンとして面白いことやっているなぁと感じてもらえたらいいなと。だからこそ、刺さる音楽というのをこれからもやっていきたいですね」
──本作リリース後には、どのような予定が控えていますか?
「9月からはイベントツアーが始まります。本数を重ねていくと悩みも出てくると思うんですけど、ちゃんとやれないなら意味がないなと思っているので、1本やって反省点が出てきたら、次はそれができるようにやっていこうって。小さくてもいいから課題を立てて、1つずつ叶えていきたいですよね。1本1本のライヴを通して、自分の中で何か掴みたいなと思います」
(Interview:ERI MIZUTANI)